アパート・マンションなどの不動産賃貸借契約における原状回復の範囲①―民法上の原則
どこまで原状回復したらいいの?―敷金の精算(取り戻せる敷金の範囲)
敷金・保証金・権利金・礼金の違い、で述べたように敷金は「賃料その他の債務を担保」するためのものなので、退去後に未払賃料その他債務、特に原状回復に関する債務を清算した上で返済されることになります。
つまり、敷金は賃借人の債務を担保するため賃借人が賃貸人に預託した金銭ですが、退去時に未払の賃料債務や原状回復に伴う損害賠償債務があれば、その債務額を控除した金額が賃借人に返却されます。
債務額が敷金を超える場合には、敷金は返ってこないし、逆に賃借人はその不足額を支払わなければなりません。
また、賃借人の債務が全くない場合には、賃貸人は敷金の全額を返還しなければなりません。
そこで、問題となるのが原状回復にかかる費用です。
原状回復とは、文字通り、借りたものを「原状」(=当初の状態)に「回復」する(=戻す)、借りたときの状態に戻して部屋を返すということです。
具体的には、入居後に設置した棚などの造作物を撤去したり、損傷・破損を元に戻したりすることです。
問題となるのは、そのうち、損傷・破損を元に戻したりする=「修繕・修復」の範囲です。
つまり、敷金返還請求で問題(争いの元)となるのが、借り主は借りたものを一体どこまで修繕して返却したらいいのか、ということです。
とりわけ経年変化(自然損耗)や通常の使用による損耗の修繕費用まで借り主が負担する必要があるのかが問題となります。
この原状回復についてはいくつかの法律等で定められています。
そこで、まず私法の一般法である民法上の原則ルールからみていきます。
原則―民法上の規定
- 賃貸人については「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」(民法第606条)
- 賃借人については「借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる」(民法第616条・第598条)
ただし、善管注意義務(民法第400条)という規定により、賃借人の落ち度による汚損・破損については賃借人が修繕義務を負います。
つまり、民法上は、原則として賃貸人に修繕義務があり、賃借人に落ち度がある場合には例外的に賃借人が修繕義務を負うとされているという図式です。
したがって、原状回復の範囲としては、完全に入居時の状態に戻すということではなく、賃借人の落ち度・不注意による物件の破損・損傷に限り、修繕・修復する必要がある、ということになります。
逆に言うと、経年変化にともなう畳や壁の退色や、家具の設置による変色・くぼみなど物件の通常の使用による損耗の修繕費用については、借り主が負担する必要はないということです。
こうした修繕費用は家賃に含まれるものであり、リフォームして返す必要はありません。
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